家族・子育て・学校

イタリア物語・キャンティ地方の川端で 

これは2022年の春に我が家で起こった物語です。私の住むキャンティ地方の北部はフィレンツェからたった6kmしか離れていませんが、自然の豊かな、白さぎが悠々と飛び、鹿があちこち跳ねているような、そんな地域です。

鹿が死んだ

片足を怪我して、身動き取れずにいた

命が尽きた黄昏時…

近所の川縁で動けなくなっていて、
人間に抱き抱えられても、抵抗さえ
しなかったという。

警察から消防隊から、あちこち電話を
したけれど、誰も来ない、連絡が
つかなかった… 

川辺でもがいていた様子を息子が
発見したのは、かれこれI時間以上前。 

獣医に電話をした隣の奥さん。 

「目元を覆ってあげて落ち着かせてください。」 

そう言い残して、町の反対側からこちらへ
向かうという…

私はにわかに汗ばんで、ともかく、布を 
持ってくるからと、100メートル先の家に
飛んで帰る。

戻ってくると、夫は自分の上着で鹿の
目元を覆っており、鹿はだいぶ穏やかさを
取り戻していたかのようだった…

川縁で、父親をじっと見守る小学生と、
高校生の子供たちはそれぞれ何を思い、
それを見守っていただろう… 

「いやもうだめだ…」 

しばらく時が経ち、鹿の最期の様子を
見てとった夫は、そう言って腰を上げた… 

私は、小学生の息子の、声にならない何かを
聞きつけ、ふと振り返った。 

隣のご主人と会い、鹿の様子について会話を
交わす。大人たち… 

揺れ動く子供心、大人の言葉とは違う
論理を組み立てようと試みるかのような、 
壁にぶち当たったようなショック音が
聞こえるようだった。 

大人とは別の思考が小さな頭の中で
回転している。

言葉にならないテーマに、思いと
自身の動きに誤差が生じる… 

それを感じとる私は、下の子を抱きとめ、
ちょっと2人で会話とワークを。

何かを受け入れ、何かを自分から発した後、
母親から離れる。 

それでいい。 

父親と、ずっと見守った1時間だった。 

父親からは、風呂に入る前に、死について、
動物について、少し話を聞いた息子。 

ただ聞いているだけの小学5年生 

それでいい。 

いつも答えを必要とはしない。 

聖なる夜だった…

………………..
松井純子・イタリア物語
フィレンツェ郊外・キャンティ地方の田舎より
2023年4月の終わり、桜が咲き終わろうとする…
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