アグリツーリズモ

アグリツーリズモのリアル風景・イタリアから③

アグリツーリズモを初めてまだ間もない頃の施設風景

なぜこの施設は人気があるのか?

その場所はトスカーナ地方南のグロッセート県、海から数キロ離れたところにあるアグリツーリズモ。その魅力をブログ①、ブログ②に引き続き、紹介します。どちらかというと、日本人旅行客向けではないため、施設名まで掲載せず、老舗アグリツーリズモの良好な例として、外からはなかなかわからない、この施設の内側から見えてくるものを書いています。このアグリツーリズモが築き上げたもの、この施設がたまたま生み出せた、他にない良さはどこにあったのか。これは前回のブログでも書いた通り、当のオーナーご本人たちも手探りで運営していく中で段々と見えてきたものであったようでした。まず、このアグリツーリズモに集まりやすいのは、幼子を持つファミリー。リピーターも多く、国内の利用客が多い。年配カップルにも割と人気なそんな施設です。

客室の大きさの関係上、大人2名と小学生くらいの子供2名まで、または大人3名までの客室なので、一人っ子ならいいけれど、中高生のいる家族は泊まれなくなってきます。それに、子供たちが大きくなるとファミリーに生まれる需要が今までと違い、長年通ったファミリーも段々と去っていきます。しかし、ノスタルジーを感じて周辺のもう少し大きな客室に泊まり、オーナー夫婦に会いにくる元常連客が後を立たないのです。

私が思うに、この施設の圧倒的な良さは、ディスタンスの取り方でした。

結論から言うと、客室同士のディスタンスの取り方、また人間関係のディスタンスの取り方に長けていたと言えます。まずは客室のすぐ外にあるプライベート空間と共同空間についてです。上の画像はひと昔の写真。石畳奥行きが今より狭いような気がしますが、緑の扉が客室に入るための外側のドアで、入り口から転々と小さな石畳が芝生の中に敷かれているのがわかります。。現在、客室の入り口前、庇の下にあるプライベート空間は、おそらく横幅3メートル奥行き4メートルくらいのスペース。そこは全て石畳になっていて、その先の芝生の空間と分けられています。綺麗に整備された青々とした芝生は果樹などもそこここに見られ、見ていて心地よく、さりげなく石畳から先は共同空間だよというイメージを与えます。両脇には横幅1,50メートルくらいの掃除用具入れがあり、 お互いすぐには隣が覗きづらいようになっていますから、それでプライバシーが保たれています。プライベート空間には、120cmx80cm程度のテーブルと4つの椅子、ビーチベットが一つあり、庭を眺めながら朝食をこの空間で楽しんだり、子供たちは夏休みの宿題をします。父はビーチベットで寝転び携帯を見たり、本を読み、海で使ったおもちゃを干して、というようなリラックス空間なのです。時折、客室に泊まる旅行客や宿の者が通りますが、「やあ、今日はどこの海に行ったわよ」と挨拶する程度で皆適当に引っ込みます。子供が小さいファミリーは、客室前の芝生も利用し子供たちを遊ばせます。隣に似たような年齢の子が泊まっていたら親としてはしめたものです。おもちゃを出し合ってしっかり遊んでもらえます。ビーチベットで寝転がっていても、家具があるのでダイレクトには見えず、パパはお昼寝。この程度のプライベート感で、まず問題なく皆気持ち良く過ごせています。完全に一人きりになれるプライベート空間ではないのですが、おそらく欧州人は適度な周辺客とのコミュニケーションを喜ぶので、ここの造りがもたらす距離感を心地よいものと感じています。その理由の一つは間違いなく、客層が関係してきます。若い2人のカップルが泊まりに来ると、丸一日ビーチで過ごしたり、1週間の滞在のうち4、5日はディナータイムは外食ですので、このような場面に接触するのがそもそも少ないので、プライバシーを侵害されている感は持たないようです。しかし彼らもお隣に泊まる客と適度なコミュニケーションを気持ち良く楽しんでいます。

夕食の時間になると、隣の客室も外のテーブルに食べ物を運び始める音が聞こえてきます。そうなると、お互い、「今日は何を食べてすましちゃうのよ」、「今日はうちはバーベキューだよ、お宅も火を使う?」「 いただきます♪」などの声が聞こえてくるのです。このくらいの適度なコミュニケーションは欧州人にとっては心地の良いものなのです。全く静かに自分達だけと言うのは逆にあまり好まないような気がします。それは12歳以下の子連れのファミリー客が多いからと言う理由もあるでしょう。

夕食が終わり落ち着く頃になると、およそ21時半から22時半の間あたりでしょうか。宿のご主人は自分が作った蒸留酒、グラッパなどを提げて客室を回ります。ひとしきりお喋りをしたりするのが、宿泊客にとっても楽しみの一つです。特に愛嬌がいいわけでもないのに、彼のキャラクターや農家さんらしいまっすぐな物言い、彼独特のユニークな皮肉に会話が弾みます。彼がまたとても素晴らしい時間時計を体内に持っていて、適当なところでさっと去っていきます。美味しい適量のスイーツが食卓に出され、美味しい!と喜ぶところで最後の一口は終わり、それ以上食べさせず、すぐさま皿を下げていくような、そんなイメージです。そのため、彼が来ると煩わしいというのはまずなく、皆彼と今日あった事を語り、一言冗談を交わすのを何気なく楽しみにしています。この役割は断然ご主人で、奥さんは家の切り盛りで忙しく、あまり顔を出してきませんが、会えば、ジョークの一つでも投げてくる頭のいい奥さんなのです。

ご主人は農家さんなので、朝は早く4時、5時には農作業に入るようです。そのため、オーナーの一家が一番静かにしているように感じられるタイミングは、昼食時間から昼寝タイムです。そのタイミングが一番彼らを見かけず、彼らの家の周辺がひっそりと静まり返っています。そんなタイミングは我々もわざわざ邪魔しにいきません。「休んでるかもだから後で聞こうね…」

アグリツーリズモというものに慣れている欧州人は、ここは農家さんの経営する宿、だから彼らには本業があってそれで忙しい。というのを理解した上で訪ねていくので、経営者を困らせることはなく、滞在中も自立したあり方で楽しく滞在していきます。

アグリツーリズモができる前の建物の様子。左写真は、現在奥の建物が動物小屋、手前がバーベキューコーナ。右の写真は客室に

今後どうするのか?

我が家もいつの間にかこの宿の常連客になり、子供が生まれて数年後から中学に上がる前まで約10年ほぼ毎年通いました。それだけ愛着が湧き、行きたくなる宿だったのです。毎年のルティーンになりました。しかし、子供たちが中学生以上になると、彼らの友人がいるバカンス場所を求めてバカンスをするようになりました。家族のニーズが変わってくると同時に、帰りたいけれど、このアグリツーリズモには行けない。そんな段階に入ってしまいました。今でも懐かしくてクリスマスなどにはお祝いのメッセージを送ります。

年月が経ち、この宿のご夫婦も段々と年齢を重ね、さあ、後継者をどうする?の課題の前に立たされるようになってきました。

そろそろ定年だね、このアグリツーリズモはどうする?

ご夫婦の3人の子供たちは順調に育ちましたが、それぞれの道を見つけ、アグリツーリズモや農業とは無縁の世界に入っていきました。誰かに経営を任せようか、全部売り払おうか、そんな話が大真面目な課題となってきたのです。農家をやるご主人は毎年、もう閉める!と言いながらとりあえず、まだ経営を続けていますが、流石にプールのメンテナンスをやめ、宿に泊まっても利用ができないようになってしまいました。

プールがないとかなり残念なのですが、今のところ客足は減っておらず、夏のハイシーズンは常にほぼ満室。最近はイタリア国外の客も増えているようです。「さあ、今年はいよいよ閉めるか、いやとりあえず、今年だけ続けよう…」というやりとりを繰り返すここ数年。

近いうちにご夫婦は大決断を下さねばならなくなる…そんな時期がいよいよ迫ってきています。

決断がされ、アグリツーリズモの行方が知れたらまた書きたいと思います。

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